素晴らしいオペラグラス

 これは確かに素晴らしいオペラグラスです。これだけ凝りに凝って作られたオペラは見た事がありません。光学器勃興期の頃、それは多分1800年代末頃だと思われますが、その頃は現代とは違って大量生産ではなくすべてが「手作り」に等しい作業でモノが作られていた時代でした。このオペラはその時代の傑作だと思います。

 写真の左端にノブが見えますが、それを回す事でカバーの開閉が出来ます。ノブは対物レンズ部に直結されているのでカバーが開くと同時に左右の対物レンズが立ち上がり観望が可能となります。対物部はどっかでカチンとストップするべきだと思うのですが、そのためのストッパーはありません。ノブが真上に来たところが所定の位置になっているようです。対物レンズ径は30ミリ、倍率は推定3倍。無理はありません。

 この時代は、何度か申し上げていますが、現在のような旋盤やフライス盤などでの機械加工は行われていませんでした。板金細工、プレス、ダイスやタップでのネジ加工、これらがそれまでの伝統的な加工方法として確立されていたので、従って、この製品もすべてそれらの方法で作られています。
 −−−−−とにかく板金加工が見事です。手触りが柔らかです。特にペタンコに畳んだ形に「ありし良き時代」の暖かい風情を感じます。
 もしこれを現代風な加工でやるとなると大変な事で、まあ、不可能に近いでしょうね。

 カバーを閉めるとパッチンと可愛い音を立ててキッチリと締まりました(但し、古くなった関係で片側だけですが)どうやって細工されているのか気になって調べたのですが、実にキワどい方法が取られています(詳しくは省略)。----もう名人芸と申すほかありません。

 部材は殆どが真鍮で小物やビス類は溶接(ハンダ?付け)でしっかりと固定されてあります。カバーの内側は遮光のため黒く処理されてあるのは当然としても、真鍮はじめ銅系統の金属を黒処理するのは今でも困難なので、これだけ真っ黒にするとなるとどうやって処理をしたのか、ちょっと考えた程度では推測も憶測も出来ません。当時でも秘伝?だったのかも知れませんね。

 ピント合わせのため接眼レンズを繰り出すには、中心軸の外側に楕円形の窓が抜いてある箇所(写真で確認出来ます)、その中のローレットの付いた軸を回転させる事で出来ます。楕円の窓は反対側にもあるので、二本の指を使って気持ちよく回転が出来てスムースです。20ミリ程繰り出した所が無限ピントです。

 実は、オペラグラスに限らずあらゆる双眼鏡に共通してネックになる箇所があります。それはここの接眼部の昇降の出来具合いの良し悪しです。本体を両手に持って左右の接眼部にそれぞれ指を当てがい、上下に動かす(シーソーのように)と、大抵は無限位置でぐらぐらするものです。どの程度ぐらぐらするかが良否を見分けるキーポイントになっています。然し、このオペラではなんと!!見事にしっかり組んであります。ぐらつきは殆ど見られません。これまで眺めてきたこの種の製品ではピカイチです。アッパレと申すほかありません。

 現在のこの種のオペラグラスは通称「ガマグチオペラ」と云って、全体が四角の片開き構造になっており、それはそれで優れた作りと言えますが、ここでのオペラグラスのデザインは二つの鏡筒を連結させたダブルデザインです。勃興期だからこそ出来たデザインだと思いますが手間とカネがかかり過ぎ、現在では絶対に出来ない作りです。

 ケースはこの製品にふさわしい形をしています。本来は牛革で作られていたと思われますが現物はブタ革でした。よく見ると、後年手縫いで作られた素人細工である事が分かります。持ち主が丹精込めて作った自分用のオリジナルケースとでも呼びましょうか。ほのぼのとした家庭的雰囲気が漂っていました。

 このオペラグラスはオーストラリアで発見!!されたとあります。
 年老いた白髪のお爺さんが大切に持っていたもので、ケースはお婆さんが身に覚えた若い頃の腕前で作ったもの。やがてお孫さんの時代を迎え仕事の関係でイギリス転勤となって、やむを得ず手放した・・・・こんなストーリーはどうでしょうか。
 因に、このオペラグラスには表示された刻印は何もありませんでした。



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