.  ラジオ付き双眼鏡
  Viewlux 10x45
 複合商品の宿命
    傾向と対策の不足

 この双眼鏡は25年程前に日本のS社で開発生産された製品です。勿論どの程度生産されたか定かではありません。開発及び生産に投下された
資本は回収までに至ったかどうかそれも詳しくは知る由はありませんが。S社はこれがため---という訳ではないでしょうが、その後双眼鏡生産
を打ち切り、そして撤退への意思を表明されました。途上国の追い上げも予想される時代に入っていたので、今となっては危機的状況がやって
来る以前での撤退への選択は妥当だったと申し上げるほかはありません。

 それにしても、日本人はどうしてこの種の複合製品にのめり込むのか不思議に思います。ドイツなどの西欧諸国にはこの種の製品は生まれて
いません。もし生まれているとしたらアメリカには結構ある--とか、思う時がありますが・・・。
 然し、すべて古典的な製品の流れだけで進むとしたら、世の中は全くつまらなく感じだろうし、いわゆる「いろもの」と称するこの種の彩り
はあって然るべきかも知れません。但し、そのいずれもが短命に終わっている点が悲しいところです。

 双眼鏡の右の上カバー部の拡大写真です。接眼レンズのやや右上の丸いツマミはスイッチを兼ねたボリューム。右下は選局ダイアル(AMの
み)。真上の大きな丸いものはスピーカーです。この種の製品にはイヤホン装着式が多いと思うのですが、この製品では小型ながらスピーカー
をつけてあります。電池は単5を三本、これは左カバーの箇所に収めるようになっていました。この電池からスイッチ、ダイアル、そしてスピ
ーカーへと配線がされてあるのですが、配線経路にはかなり苦戦した筈です。それだけに、なるべく目立たないようにと工夫されてある点は充
分に分ります。
 スピーカーは中心軸の下、現在ではカメラ三脚取り付けネジがある所、そこに着脱出来るようにセットします。然し、スピーカー装着を考え
たアイデアはいいとは思うものの、収まり具合が悪くいかにも突出して目立ち過ぎます。そのためイヤホンも別途使用可能として用意されてあ
った筈と考えたのですがこれも詳しくは分りません。

 双眼鏡は軽い方が勝る---これは鉄則です。然し、複合製品となると、どうしても余分な臓物を抱え込むため重量オーバーになります。
この双眼鏡は、最初50ミリ対物レンズかな、と思ったのですが実際は45ミリでした。その分僅かであっても軽くなっています。
 更に、初めに一瞥した時は、当時としてプラスチックを多用したのはいかがなものか、とも考えました。プラスチックの場合はコストには有
利であっても型の費用で初期投資が大きくなりすぎるのです。然し、これも重量の点をかなり懸念されたのか、徹底的に軽量化を目指した設計
になっているのでその努力を買って正解と申し上げておきます。
 但し、それであっても、いかにも大きく重い双眼鏡である点に於いては変わりありません。

 当時の電子化状況はどのへんまで進んでいたのだろうか。小型の携帯ラジオもすでに結構出回っていたと思われます。然し、まだICチップの
出現までには至らなかったと思いますが、その時代は目の前に迫っているとの認識は誰もが持っていた筈です。因みに下の名刺サイズのラジオ
はビクセンで出したオマケです。厚さは数ミリ、厚紙同様でありながら機能は完全です。電池はこれも数ミリ厚のボタン電池です。ガサの大き
い乾電池ではありません。(イヤホーンだけなら現在はボタン一つで充分。)10数年前の事でした。電子時代は物凄い勢いで迫って来ていたの
です。

 投下資本が大きければ、それだけ長期にわたる販売見通しを立てる必要があったろうし、その間、電子製品がどのように発展進化していくか
大雑把であっても時代認識をはっきり持つべきであったと今更ながら思いますがどうだったでしょうか。
 ともあれ、S社としては、憶測ながら標準的な双眼鏡の生産ではもう儲からない時期に達しているとの認識。そんな事で、何でもよいから製
品に付加価値をつけて切り抜けなければならない---とする切迫感があった事情。等々、現在の日本が抱えている諸問題を圧縮した形で既に先
取りして感じ取っていたのかも知れません。

 下は今回の双眼鏡(左)と、以前ビクセンがOEMで作ったアメリカ向けの受信発信機付きの双眼鏡です。不特定多数と無線でやり取り出来る
仕組みで、競技場などでの選手、監督、観衆、などとの交信に便利だとのふれこみでした。当初の生産見込は驚く程の台数でしたが、結局は予
定の何割かで終止符を打ちました。(それにしても大変な台数でしたが。)
 目的を特定した特殊な複合商品であっても、計画を凌駕する生産はなかなか達成出来ない事が如実に分ります。

 最後になりましたが、双眼鏡本体はさすが老舗の製品であるだけ全く問題がありません。

 双眼鏡で、例えば野球場の内野席上段あたりを想定して、バッターボックスでの打者の表情を見たいとなると10倍ではちょっと迫力不足に感
じます。それと重さも問題になります。出来たら小型ミクロンタイプ級でズーム20倍前後くらいの倍率、それくらいが適当な性能と思われま
す。つまり今回の双眼鏡では倍率設定が少し低い感じで、加えて、重くて大きすぎる感じもすると云う事です。それと野球放送を聞きながら周
囲にスピーカーの音が流れたらいかがなものでしょうか。クレームが来る場合もあったのではないでしょうか。
 勿論、野球場以外にも使用箇所はいろいろある筈で、一刀両断でアレコレ申し上げる事は出来ません。ただ、芳しい売れ行きではなかった、
と云う一点から言わせて頂けば、あらかじめ使用箇所をもう少し丁寧に洗っておく必要があったのではないか---つまりマーケットリサーチが
不足していたのではないか、「傾向と対策」が多少不足していたのではないか、と残念に思った次第でした。



 複合商品についてビジターからコメントがありました。

 複合商品は日本製品に多い-----と、サイトの中で何度か書きましたが、ドイツにもある、との事でした。それは、50年前程のカメラ付き双眼鏡で超デラックスなもの。価格は推定で数十万はしそうな豪華版との事です。メーカーはJ.D.Moller(メラー)社のカムビノックス。交換レンズ使用で望遠と標準付き。但し、判明している仕様はそこまで。双眼鏡の口径、倍率、カメラでの使用フイルムサイズ、等々は不明でした。
 複合商品は日本だけ、との絶対条件付きの主張ではなかったつもりでしたが、いずれにしても新しい発掘の手助けになります。心強いコメントでした。厚くお礼を申し上げます。願わくはロングランでヒットした複合商品があればなお心強い援軍になりますが、何でも結構です。情報がありましたらメールをお送り下さい。


.                              |戻る|