カメラ付き双眼鏡
時代から取り残された複合商品の悲劇
---オリノックス---

 今回は7倍20ミリのカメラ付き双眼鏡で、メーカーはゴトー・サン(『後藤さん』ではない。)です。ブランドはORINOX(オリノックス)、推測では昭和50年頃の製品だと判断しました。

 カメラ付き双眼鏡については以前「滅びの美学」と題して詳しく取り上げたサイトがあって、その中にこのゴトー.サンの製品も比較をする意味で入れてあります。その当時は、ありふれた双眼鏡に16ミリのカメラを乗せただけのお粗末なモノと決めつけて酷評?したのですが、改めて今回現物を拝見した限りは、なかなかの製品で侮れる双眼鏡ではない、と認識を新たにしました。

 ビクセン光学とゴトー・サンとは別にお付き合いはありませんでしたが、何かとハナシはその都度あったという記憶があります。要は双眼鏡の組み立てに関しての接触で、直接の進展はなかったものの、いろいろと当時から注目はしていた製品でした。

 昭和50年頃と云えば、通称ワンテンカメラと呼ばれたインスタントカメラの勃興期にあったような気がします。使用フイルムが装填に楽なカセット方式であったために、時代に乗って派手に流行を来したのだと考えられます。この「カメラ付き双眼鏡」もその時代に添った新しい視点から開発された文字通り「時代の寵児」になるべき製品だったのでしょうが、不幸にもその予測は外れたと思うほかありません。手軽な筈のインスタントカメラそのものの流れが昭和の終わり頃に急激にストップしてしまったからです。
 その理由は、カメラは「使い捨てカメラ」と云う全く新しいコンセプト商品の時代に入った事によります。インスタントカメラの時代はあっと云うまに過ぎ去ってしまったです。ゴートー・サンのこの製品もその時代の流れには抗すべくもなく販売方向を見失った筈です。
 生産が軌道の乗った頃に流れが変わったのが悲劇でした。北海道に大きな工場を建設し、更なる発展を期待した時は既に遅く、急遽、双眼鏡から交換レンズ生産に方向転換したと聞いていたのですが、それにも拘わらず会社の状況が好転したとはついぞ聞く事もなく、ゴトー.サンはいつの間にか話題の外に追いやられ、そして消え去っていきました。
 頼みの輸出の方はどうだったのか?。状況は似たようなものだったのだと思います。
 (なお、この双眼鏡は海外ブランドとしては TASCO 及び GOTO のブランドで出荷され ORINOX は国内向けブランドとされていました。)

 それはさておいて-----

 この製品の、双眼鏡はどの程度のレベルだったのだろうか?。
 ----結論としてはかなりの水準にあったと申し上げていいと思います。立派な製品でした。

 双眼鏡本体は、倍率が7倍で対物レンズ径は20ミリ。大きさや性能の点で選択としては無理がありません。作りもしっかりしています。タイプとしてはツアイスタイプ。プリズムの硝材はBAK-4、高級タイプです。
 内部を見ると、プリズムは「かしめ」の方法ではなく、当時としては夜明け前の技術だった「接着」の方法で固定されています。但し、これには先見の妙があった、と云うよりは「かしめ」の出来る組み立て調整員が量的にも質的にも手配が困難であったための、やむを得ず取られた策だったと思われます。
 当時は「接着方法」は一人前の組み立て調整員からは見向きもされず「素人技術」だと見くびられていたのが実情でした。
ともあれ、当時で接着方法を採用したのは能率向上の必要性から考えてもアッパレで間違った選択ではありませんでした。(因に、現在ではすべて「接着方式」で「かしめ方法」は全く行われていません。)
もう一方の軸出しの方法は対物レンズ枠のエキセンリングで行う古典的な方法です。この方は理に適った方法ですから勿論その方法でキチンと組み立てられています。

 デザインが素晴らしいと思いました。ほぼ長方形に纏まったフオルムはハイセンスです。更に、全体から受けるメカニックなイメージは日本人好み。少なくとも、こう申す小生の好みにピッタリで文句のつけようがありません。

 カメラの方はどうか。
 これも問題はありません。インスタントカメラはその名の通り、インスタントだけに安物が多く、レンズも小さく従って写りも決して良くありませんでしたが、このカメラでは堂々とした大口径のレンズを使用しているのに加えてf=5.6です。無理がありません。分解能に於いても収差に於いても通常のカメラにヒケをとらない筈です。大いに自慢出来る優れたカメラです。
 レンズの中身は分解していませんので正確には分かりませんが、多分トリプレットだと推測しました。


メカニックなデザインが気に入りました。
-----双眼鏡の対物筒の先端に白い化粧環が欲しいところです。


長方形のデザインが安定感を与えています。
場所を選ばず座りの良い設計になっています。

 カメラレンズは望遠でf=122mm 1:5.6 とあります。野外使用に限られている機種ですから充分な仕様で文句のつけようはありません。
 f=2 とか F=3.5 クラスの明るいレンズはこの種の製品では必要がないのです。従って、その分レンズに 設計上、研磨上、そしてコスト上 の負担が少なく済んだのは容易に察しられます。云うまでもありません。選択はベストでした。
カメラ上面にあるシャッタースピードは簡単に 1 と2 に区切られていますが本体の裏面に貼ってある露出ガイドには speed1=1/125sec speed 2 =1/250sec とあり、ASA100及び400での絞り径が指示されいます。
 shutter speed selecterは晴れから曇りまで5段階に分けてあります。親切かつ充分です。絞り径は5.6から32まで6段階表示。これも普通の数値で問題はありません。近接距離は50cmからとなっていました。
 使用フイルムは当然ながらインスタントフイルムです。(このフイルムの呼称はこのほか インスタマチックフイルム、ポケットフイルム、カセットフイルム、等々、いろいろあったような気がしますが・・・。)フイルムサイズは13x17mm。通常の16mmフイルムのサイズは12x17mmなのでわずかに大きくなっています。どうしてこんな半端なサイズになったのか、詳しくは不明ですが、ベースになっているのは16mmフイルムである事には変わりありません。その範囲で可能な限り大きい画面になるよう考えたのでしょうか。

 フイルムはカセット方式ですからカメラの裏蓋を開いてパッチンと入れてオシマイです。ただ、内部にはフイルムの巻き取りギアと並列して二重露出防止機構があって、そのためにカメラ側の中央下部に小さな爪があるのですが、このあたりのメカに不具合が生じるケースが多かったと聞いた覚えがあります。手元にフイルムがないのでテストは出来なかったのですが、その爪を指先で何度か試してみた限りでは強度も動きもOKで予想される懸念はまず少なかったろうと判断しました。

 ピントは先端近くにあるピント調整リングを回して合わせます。ただ、このリングは双眼鏡のピントに連動リンクされてあるので、本来は両者が忠実にシンクロしないと双眼鏡で見たピントとズレが生じておかしくなります。然し、この製品ではそれを避けるため双眼鏡の接眼部はIF式(個別繰り出し式)になっています。つまり、双眼鏡はCF式(中央繰り出し式)とIF式、という不思議な二重構造になっています。やむを得ませんね。

 双眼鏡で覗くと、右側の接眼レンズの丸い視野内に、カメラでの撮影範囲を明示する四角の枠が見えます。単純に考えれば別途平面ガラスに四角のフレームを印刷か又は蒸着で付けて視野絞りの位置に重ねて装着する、と思うのですが、それにしてもちょっとおかしいと思い、外して観察したところ、なんとこの視野絞りは四角の枠と一体でプレスで抜いたモノ、と分りました。これは大変な芸当!!です。枠の縁は接眼レンズを通して覗いた感じでは倍率がかかるので太く見えますが、実際はコンマ以下の微少ミリ数で抜いてあります。とんでもないハイテク技術を利用しているのです。思わずも最敬礼しました。(実際はプレスでの歩留まりがかなり大きかったのではなかったかと勘ぐっていますが?。・・歩留まりの多寡はコストに大きく関係してきますので、もしそうだったとしたら生産性は必ずしも良くありません。然し、ここはコストへの影響よりも技術に対するこだわりを買いました。)

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 全体として、洗練された作りで仕上がっている優れた製品である事が分ります。ただ、いろんな、時代の流れに翻弄された不幸な製品だったとは云え更に加えて、内在する複合商品としての宿命的な弱点はいかんともし難く、従って、時代の変化にプラスして脆くも崩れ去った「滅びの美学」的イメージはやはり付きまといます。この複合製品という足かせこそが予想以上の早さで没落を加速させてしまったのだと思いました。

 参考までに以前取り上げた「カメラ/双眼鏡」の記事の中から複合商品についてのこちらの見解をもう一度載せてみます。

 複合製品
 二つの違った製品を一つに合体させて、より利便性を高めた製品の事を指します。一つの製品に二つの機能が付加されているので、確かに便利で、それぞれの製品を別々に揃える手間と費用が省かれるので文字通り「一挙両得」のスグレモノが出来上がります。
 ただ、その一挙両得も時と場合によっては「利便性」よりも「不便性」が突出するケースが出てきます。最近で目を引いた複合製品としては、テレビとビデオデッキを一緒にした「テレビデオ」があります。この製品自体は問題なしに便利なのですが、テレビが故障してダメになった時、まだ使えるビデオデッキまで捨てなければならなくなる、という不利益が出て来ます。これが問題であり複合製品の持つ大きななマイナス点と云ってよいでしょう。
  そんな目でこの日本製の「カメラ/双眼鏡」を眺めて見ると、成る程、そのマイナス点は確かに内在していますが、まあ、片方がダメになっても、なんとかあとの機能が使えるとしたら----例えば、カメラがダメになっても、それはその儘にしておいて双眼鏡としてフルに使えばよい、又、双眼鏡がダメになっても、双眼を片眼として使えない事もないと割り切って納得すればよい----と、そうプラス指向で進む事も出来ます。

 然し、この種の製品が持っている決定的な弱点は、その製品を一台持つよりは、個別に買った方が得策だ----つまり、この場合は、双眼鏡とカメラを別々に買った方がはるかに安いという点と、進歩が極端に早く進むカメラのモデルチェンジにこのカメラは追い付いていけない----ここにあります。結局、この製品の 行く末については多分誰もが予想した通り発売以来数年にして消え去る運命を辿りました。(そのへんのはっきりした経緯が分らないので断定してしまいましたが、この製品が世評にも上がらず、我々も知らぬ存在だったので、そう断言せざるを得ませんでした。)

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その他、似たような製品には「ラジオ付きカメラ」「懐中電燈付きラジオ」「ラジオ付き双眼鏡」等々ありますが、そのいずれも商品としては主流に成り得ず、単なるアイデア商品としてオマケ的商品の地位に甘んじているのが実情です。

----※ 因に、このオリノックスを使用して写した写真を持っている知人がいました。但し、まだ現像をやらず放置したままになっているとの事です。25年以上前の事なので、どんな状況になっているのか見当がつかないがともかく処理をしてお見せするとの事でした。恐るべきハナシ?ですが、いずれその折りには追加してアップロードするつもりでいます。
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 ---その写真が出来上がりました。20枚撮りフイルム全部が真っ赤な色調でプリントされていたので驚きました。。何故こんなになるのかDP屋さんも分らないとの事でした。写真は大雪山だそうです。
 PC上で画像処理をしたので鋭い形で写っていますが現物はもっとぼんやりとしています。

 下の写真は、その時のフイルム化粧箱です。現像期限は Septenber1978となっていました。従って写した月日ははっきりしないが、少なくともその期限前、推測では1975年、だと思う、との友人のコメントでした。
 因に、この種のフイルムの現像プリントはフジフイルムでは昨年をもって終了している。との事です。DP屋さんでは特例?か強引にか自社処理か、不明ですが1週間かけて処理してくれました。



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