昔のオペラグラス-C
4x40ミリのオペラグラス(ブッシュ・ドイツ)
この製品の身元表?には---
Busch 4x40
Manufactured by a German firm(Busch AG)near to Berlin.This company
does not exist today.
とあるだけです。
ただ、このオペラグラスは有名だったらしく、日本の光学の本にも書かれてありました。
「・・・戦前ドイツのエミール・ブッシュ社製の狩猟用の双眼鏡で、できるだけ視界を広くした、高倍率のガリレオ式双眼鏡として代表的なものです。・・・・」とあります。詳しくは下記の本をご覧下さい。
但し、この本に取り上げられている機種は対物レンズ口径が56ミリとあります。図を見ると、両対物筒が限界ギリギリまで接近しているのが分りますが、手元にある現物は40ミリですから細身に出来ています。何種類かのバリエーションでシリーズ化されていたと思われます。
本に載っている56ミリの諸元には
対物レンズ有効径 56ミリ
倍率 4.5倍
見かけ視界 18度
実視界 4度 1000メートル先で69メートル
対物レンズのf値 2.5
以上のように記されてあります。
現物の4x40は4倍ですから多少倍率が小さくなっていますが、その他の諸元は4.5倍56ミリの機種と大体同じような数値になっていると思います。
オペラグラス-A 4x40 では無限位置まで伸ばした長さが140ミリでしたが、このブッシュ4x40では 120ミリです。その違いは対物レンズのf値に関係しています。
「望遠鏡光学:屈折編」吉田正太郎 誠文堂新光社
(1989.12.10.発行)
見え味は別に問題はありません。但し、-Aタイプと比較すると -Aタイプの方が遥かにクリアーな見え味です。つまり、こちらの方が明らかに劣っています。その理由として考えられる点は、こちらの
-C タイプの方の倍率表示が同じ4xでも 覗いてみると-Aタイプ より高いのでそれの関係が考えられます。もう一点はレンズの黴(かび)の有無です。これもかなり影響しているようです。像のヌケが悪いのです。それは
f 値の違いにも関係しているでしょうね。見え味は当然ながら f 値の長い方に有利に働きます。
-B タイプと比較してはどうか。-B タイプは -A タイプに近い作りなので -A タイプと大差なくヌケるような見え味ですが前述したように
-Bタイプ はちょっとおかしいのです。従って、比較は -A タイプと -C タイプで比較するのが順当でしょう。
-A タイプと違って、こちらの方がかなり重いのは真鍮材を多用しているせいです。重いのは芳しくありませんが、その分重厚で高級機の感じ充分です。重いといっても所詮は小型機種ですから気になりません。
全体は黒一色でまとめてあります。ボデイの皮張りは本皮と云いたいところですが、どうやら何か本皮もどきの材料で巻かれている感じでした。安くあげるため代用品を使ったのか、どうか、詳しくは分りません。然し、本皮に固執する必要は全くない箇所ですから、適材適所の応用を考えた結果だとすれば、むしろ「アッパレ」と誉めるべきだと申してよいでしょう。
然しながら、内外の構造をよく見るとおかしい点は一杯出てきます。
この種のオペラグラスに共通の問題、光軸調整はどうやって行っているのか、それがこの製品でも分りません。
最初 覗いてみてすぐ光軸の狂いに気がつきました。高低に差があったのです。試みに接眼部をかなりの力をこめて僅か回した事で狂いは矯正されましたが、この事からも各レンズを入れっぱなしではダメだという事が分ります。光軸調整は何等かの形で行われていた筈です。
真鍮製の接眼見口のネジを回して外してみたところ、接眼レンズ枠の方のネジの先端にタガネを使って明らかな切り込みが打たれてあります。何のために打ったのか、それも両接眼部に打ってあるので(位置は違っています)、もしかしたらこれを調整の目印をしたのではないか、と、考えいろいろ推測を重ねたのですが、目下のところは解決していません。接眼部にはその切り込み以外は何も調整した跡らしき気配もありません。
対物外筒のネジを外してみると、対物枠が二重になっていました。但し、これは不思議ではありません。よくあるケースです。次に、その対物筒からレンズの入っている内側のレンズ枠のネジを慎重に回して外そうとしたところ、意外や、オイルがついてあるように、ねっとりとした感じで回って外れました。然し、外れたネジ部は乾いていてオイルは見当たりません。痕跡もはっきりしませんでしたが、もし、この種の骨董品でオイルが使用されていたとしたらその例は始めてです。但し、オイル使用の感じはここの箇所だけです。何故ここだけなのかそれも奇妙で不思議なことです。然し、それも驚きなら、引き出された対物レンズを見て再度驚きました。最初はレンズの外周に直接ネジを切ってあると錯覚した程、レンズにぴったりした超薄手のレンズ枠だったのです。その超薄手の金物の外周にこまかいネジを切ってあったのです。レンズはかしめの方法でレンズ枠に封じ込められているのか外せません。
それにしても、そうせざるを得ない事情があればまだしも、空間には充分余裕のある場所です。何故なのか----分りませんね。
設計がヘタだったから---と云っては実も蓋もありませんが。
それにしてもシャクだったので、もう一度前に戻って接眼部を調べてみました。
とにかく、接眼部枠のタガネのボッチはガタ止めのため打った筈だと狙いをつけ、接眼枠に押し込んであるレンズ枠を無理して押し出したところポロッと外れてきました。それで解決しました。最初からガタガタの状態で接眼枠に入っているレンズ枠を、目視して回しながら光軸を取り、決めた位置で固定するためタガネを使ったのでした。
超薄手の対物レンズ枠は何故か、これの方は成り行きでそんな図面を書いてしまったため、と、考え結論としました。誰が考えてもおかしいのはおかしいのです。他人様の能力不足を詮索する必要はありませんが、ドイツ人もダメな奴はダメなのです。
このオペラグラスは、最初の -A タイプと違ってブリキ細工的なイメージではありません。光学器械にふさわしい精密な作りで仕上がっています。ネジは無論旋盤でキチンと切られた筈です。その他の部品部材も現在と殆ど変わっていません。立派な作りです。
ケースに入れるとバッチリ決まります。
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追記
----各製品の対物レンズ関係に疑問があったので、-A タイプ -B タイプ -C
タイプももう一度、それぞれの対物部を強引にバラしてみました。その結果、分かった事は超薄手のレンズ枠が多少の寸法違いはあるとしても、その方式が共通して採用されているという事実です。
レンズもかしめではなく、ちょっと振ってみると簡単にポロリと出てくる簡単な収め方です。各レンズは想定した通り合わせレンズのアクロマートでした。
超薄手のレンズ枠は、最初の頃、両対物筒がギリギリの太さになるまで対物レンズを一杯に大きくしたかったため(その限界は対物レンズ径が56ミリです。)絶対に必要な加工条件となったもの。つまり最大レンズ径の大きさの機種用に作られ、その後は、対物レンズ径の小さな機種で、両対物筒の間に空間的余裕が生じても、とにかく保守的心情もからんで設計変更される事もなく延々とそのまま踏襲されて続いてきたのだと思われます。
キワどい加工方法がその後の加工技術をレベルアップしたとなると意図せぬ貢献をしたことになります。技術の進歩なんてそんなモノかも知れませんね。
忘れていましたが、三種類とも、ウワジンはすべて後家さんです。
加えて、三種類とも、ピント合わせのための昇降軸の繰り出しの作りは最低でした。ギスギスしてスムースではありません。中古品の宿命で最もガタの起き易い箇所がその通りのガタガタになっています。これからの充分な手入れが必要になるところです。