meibo オペラグラス
3X30 10°

 meiboは富士写真のブランドです。富士写真もかってはこのようなオペラグラスを製造販売をしていた時代がありました。
 このオペラにはコーテイングがありませんので、終戦前の製品という事が分ります。作りも一般的で特別にセールスポイントもない普通の出来ですが、軍事用を目指して作られた機種だとしたらそれでも良かったのだと思います。
 一通り眺めて気が付いた点は、まずデザインがとにかく地味です。日本でのオペラグラスは、貴婦人相手に観劇用に使用されるケースはゼロに等しいので民需として発展してきたという歴史はありません。ある程度は民需からの需要も期待しながらも大体は軍事の視点から設計され生産されて来ました。地味なのにはその理由がありました。軍事用に配慮していたとしたらデザインに重きを置く必要はそれほど大きくはなかったと思います。

「メイボー」というブランドが戦争を通して問題なく使用されたのか、という疑問点もあります。この件については、これまで何度か指摘して来ましたが、野球ですら「セーフ」「アウト」が「よし。」「だめ。」と訂正されて使われて来た歴史があるのです。横文字は絶対にダメな時代だったのです。それが戦時中の実情でした。従って、このオペラグラスが戦時中に生産された製品だとしたら「meibo」の横文字ブランドは許される筈がないと思うのですが、実際はどうだったか、その頃の長老にでも聞きたいと思うのですが、残念ながら心当たりの人物は居ません。

 そんなことで、もしかしたら、このオペラグラスは戦争中生産された製品ではなく、もっと前、大正か昭和の初期頃に作られたのかも知れません。その目で見ると、革ケース、革の編み紐、それらも軍事用としても立派ですが、反面民需用としても結構いける仕上がりです。昭和初期であれば革ケースに横文字ブランド、という組み合わせも大目に見られた、と考えてもムリではありません。

 対物レンズは対物枠に入っていてカシメの方法で固定されてありました。カシメは古い方法です。その対物枠は鏡筒に入れられ押さえ環で締め付けられています。この組み付け方は最も普通の方法で問題はありませんが、気になるのは押さえ環が真っ白に光っている点です。そのため、製品イメージに対してアクセントとしての役目はあったにしろ遮光の面からは全くの邪道なのです。本来は無条件で黒く仕上げるべき部材です。軍の仕様書に従って生産されたとしたら、このような部品仕上げ方法が許可される筈はありません。従ってこの機種は戦前はるか前に軍需を前提にしながら同時に民需にも対応出来るよう富士写真が独自で作ったと考えた方が理屈には合いそうです。

 オペラグラスは、機能的にプリズム双眼鏡よりはかなり劣るので、軍事用として日本で使用された例は多くありません。やはり民需用として最初設計されたとして正解なのかも知れませんね。

 接眼レンズは対物レンズ同様レンズ枠に入って接眼部に一本ビスで固定されてあります。調整ではビスをゆるめ、レンズ枠を回転させ光軸を取り、OK、となった位置でビスを締め、調整を完了させます。この方法は然し、現在の3本ビス方式に比較して作業の正確さとスピードに於いて半端です。現在行われている方法は、前頁に掲載の、戦後に出た岡谷光学製での3本ビス調整方法です。
 結局、このmeiboオペラグラスの生産された年の頃は、技術面でまだその域に達していなかった頃だったのでしょう。

 見え味はどうか---完璧です。
 この時代に限らず、古い製品に共通して言える事に、良くも悪くも、すべてその時代で出来る精一杯のテクニックをフルに活かして作っている事です。値段を下げるために手を抜いたり粗悪部品を使ったり、と、意図的に悪意を弄してモノを作る姿勢は微塵も感じられません。
現在のように大競争時代ではなかったので、そこまで手を尽してモノ作りに精を出す必要もなかったのでしょうね。プライドも大いに高かったせいもあった事でしょう。現代の我々にとって見習う点は多々あります。

 このオペラグラスは3倍30ミリ、視界10度とあります。視界が表示されてあるのは始めて見ました。視度表示は現在のオペラには何故か省略されてあります。オペラグラスの視界は狭い、という先入観があるので表示するまでもない、と割り切っているのかも知れませんが、例えそうであってもキチンと表示するのが正しい姿勢です。



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