兵器を中心とした
日本光学工業史

-----昭和30年に出た記念すべき重要文献-----

HISTORY OF JAPANS OPTICAL INDUSTRY
WITH
SPECIAL REFERENCE
TO
MILITARY EQUIPMENT
1955

 前項目「ドイツの双眼鏡の本」の最初の方に・・・。
 <因に、日本での光学兵器に関しての記録は、戦後それほど経ない頃、国レベルの委員会(?)が作られ、ありとあらゆる光学兵器についてトータル的に記述された本が出ました。写真は勿論、可能な限り全体像を示す図面なども豊富に入っていました。かなり分厚い本でした。つまり、その本は公式に出された本ですから精緻に書かれれているのは勿論、各種の分類もしっかりしていて誰が見ても理解出来るように配慮され資料としては100点満点の本だったのです。> 
 その本が今回取り上げた光学工業史編集会「兵器を中心とした日本の光学工業史」です。八百数十頁に及ぶ超駑(ど)級の大作で、ドイツの本に比較して約二倍の内容です。
 ドイツで発行された双眼鏡の本については前述の通り、徹底的に調べあげた稀に見る傑作として出版されていました。それも単なる個人の業績でした。然し、こちらの方は個人ではなく関係者一同がそのために会して「光学工業編纂会」を作り、昭和30年に「HISTORY OF JAPANS OPTICAL INDUSTRY 兵器を中心とした日本の光学工業史」として世に出されたのです。
 この本は、これまでに一度 所持されている方の好意からお借りしてかなり詳しく拝見しています。後述しますが、その時のヒントで「ビクセン暗視野照明装置 CA-1」(現在はGA-4まで進化しています。)を作る事に成功しています。
 その時に読んだ印象から上記のようなコメントを書いたのですが、以来再び巡り会ったので二度目の拝読になりました。今回は、前回とは違った別の方からお借りしたものです。非売品の貴重な文献だけに要所要所をコピーさせて頂きましたが、本来であれば勿論手元に置いておきたい貴重な文献です。
 中身は日本語の文章であるのは当然として、何故か、装幀の背文字は英語で書かれてあります。当時はまだまだ進駐軍かぶれの多い時代であったので、そんな影響もあったのかと思いますが、そうだとしたらセンスは幼稚です。然し、その分なんとなく戦後復興期の盛り上がるような時代雰囲気を感じました。

 


巻頭の写真は、戦艦「武蔵」の巨大艦橋に仰ぎ見る15メートル測距儀です。

ゼロ戦の射撃照準器とGA-4

 大戦中の「ゼロ戦」とか「隼」などの陸海軍軍用機の照準装置は巧みな構造で、原理は空中像(無限遠像)を利用しているものです。装置はやや大きめの箱型で操縦席の右前上に設置されているので、当時の写真を見るとすぐ分かります。レチクル(スケール)を下から電球で照らし、その像をレンズを使って上に持って来て45度傾けたガラスを通して前方に敵の飛行機と無限遠のレチクル像を重ねて一度に見られるようにしてあります。その事で操縦者はどこから見てもぶれない(パララックスのない)無限遠像を両眼で見られるので、それ以前のように片目で照準望遠鏡を覗くか、叉は前方に設置された照門・照星で狙いを定めるか、とか、それらの必要は全くなくなりました。
 この装置は戦前にドイツで考えられたもので、実際に使用した日本製はすべてそのコピーです。それも九八式と呼ばれたゼロ戦などの搭載器は終戦までの五年間全く改良されなかったので、まるで骨董品なみのデザインだったとの事です。然し「疾風」その他新しい機種に搭載されたのは三式と呼ばれて少しは改良されていてレベルアップした構造になっているとの事でした。

 以上は、現在の航空機の雑誌を見ての知識ですが、今回の本を見る限りいきさつは複雑で、一読したくらいでは正確な経路は辿れません。然し、無限遠の像を作って、それを目標とする基本的なアイデアそのものは変わっていません。
 ビクセン暗視野照明装置(GA-4シリーズ)はそれにヒントを得て考案された星像ガイドアダプターです。目的が違うので構造は同じではありませんが、無限遠像を利用する点で両者は全く同じです。現在のGA-4の先祖は大戦中の戦闘機にあった、という事です。

 参考までに、GAシリーズ開発の原点になった旧陸軍の「三式射撃照準器」の構造図を載せてみました。


陸軍の航空機に載った「三式・光像式射撃照準器」
この照準器の原理を応用して作ったのが下の写真
ビクセン・暗視野照明装置 GAシリーズです。


無限遠に照明によるクロスヘアの像を作り、目的とする星像と重なっても星像が消えないようにしたもの。
射撃照準器の方は、クロスヘアと敵機が重なっても敵機が消える事のないような役目を持つと同時に、操縦者
からの眼視によって、敵機との間にパララックスの発生が生じないようにしたもの。(説明文だけでななかなか
うまく説明が出来ません。本当は「百聞一見にしかず」実際に見ればすぐ納得出来る仕掛けになっているのですが。

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この本について云いたい事があるとすれば・・・

 上記、陸軍の照準器についてはドイツからの技術輸入によって作られたとは一言も書かれていません。海軍が作った同じ照準器ではドイツからの協力があったとは書かれていますが、その詳細についてははっきりしません。
 この例によらず執筆者が複数にわたるせいか、理解に苦しむ箇所が多々あります。敗戦後10年経っているので記憶違い、記録紛失による記憶断絶、憶測、推測 ・・・etc。それらによって、いろいろ生じても不思議ではないのかも知れませんが。

 ドイツの本に写真入りで紹介されていた250ミリ口径の巨大双眼鏡については全く記述がされていません。一方、巨大双眼鏡に対してはその口径は200ミリまでに抑えると断言している回顧録の記事があります。どうなっているのでしょうか?。
 加えて、携帯用の小型双眼鏡全般についての記録は殆どありません。これも奇妙です。我々としては一番欲しいところですが残念至極です。

 まあ、いろんなクレームはあるかも知れませんが、ともあれこの本堂々たるは第1級の資料です。これだけは間違いありません。



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