よくぞ作った遠鏡
戦車に搭載された望遠鏡だと思いますが・・・・

 この望遠鏡は色彩からして軍事用に作られたものと分ります。覗いてみると倍率は等倍か、やや上の1.2〜1.3倍くらいだと思われました。視界は40度程度です。
 長さは約830ミリ、最も太い箇所の径は43ミリ、先端は35ミリ、重さは約3キロです。
 覗く箇所には天然ゴムのゴーグルが頑丈に作られてあります。
 先端の対物レンズの径は4ミリしかありません。然し、倍率が1倍だとしたら4ミリ径の対物レンズではヒトミ径も4ミリとなるので十分な大きさです。問題はありません。
 内部のレンズ構成は不明ですがかなり高度な設計になっていると思われます。ただ外観からではレンズにはコートがない---この程度の事しか分りません。
 この種のレンズ系では、長い鏡筒の中を何枚かのリレーレンズを通して正立像が目に届くようになっているので、レンズの光量損失が多くなり、更にコートもないので、4ミリのヒトミ径であってもかなり暗く感じられます。本来ならもう少し大きい7ミリ径程度の対物レンズが欲しいところです。然し、出来る限りレンズ径を小さくしたかった理由があって、それで4ミリに設定したのかも知れません。
 そんな事から、この望遠鏡は戦車に搭載されたものと判断しました。無差別に撃ち込まれてくる敵の機銃掃射からレンズや鏡筒を防御するためギリギリお太さで設計したと考えるべきでしょう。

 鏡筒部には TERESCOPE M15 NO.66 EM E:K.C0 1941 とあります。1941年だとすれば、それは昭和16年となりますから太平洋戦争勃発の年です。そうだとしたら、日本攻撃を目的にして作られたと思いますが、こんな望遠鏡を装備した戦車があったのかどうか、ちょっと記憶がありません。戦車が活躍したのは緒戦の頃ではマレー半島での戦闘があります。但し、そこで活躍したのはイギリスの戦車でした。アメリカの戦車が出現したのは、戦争も後半、沖縄戦あたりではなかったであろうか。---となると、当初は大平洋戦争ではなくして欧州戦で使っていたのかも知れません。
 それにしても、密室の戦車内から、この望遠鏡を使って外界を見る---としても、それほどの効果があったとは思えませんね。むしろ潜望鏡スタイルにして上からぐるりと見渡せた方が良かったのではないかと思うのですが、素人考えでしょうか。

 刻印で判明するのは E:Kの文字で、推測ではそれはイーストマンコダックの略号だろうと思います。多分間違いありません。コダックはフイルムメーカーですが、フイルム以外にもいろんな光学器械を作っていました。

 軍事用の武器一般に言える事ですが、とにかくカネをかけて完全な製品にするのが絶対条件だったと思うので、この長くて細い「棒?遠鏡」も全く文句のつけようもない仕上げです。ゴーグルもカネをかけ立派な型で作ってあります。そこまでキチンとしなくても、と思えるくらい豪華です。

 ※ なお、これと同じ構造の光学器械としてはビクセン水陸望遠鏡があります。その他、小型の内視鏡などにも、リレーレンズ方式は多数利用されています。



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