正体が不明のオペラグラス-3

 上の上のオペラグラスは 対物口径30ミリ、倍率は3倍です。接眼の「両方」の見口の周囲に CALDERONT ES TARSA BUDAPEST とあります。両方の見口に同じ刻印を打ってある神経が分りません。我々であれば片方に性能(3X30mm・Field ◯◯° Non corted etc・・・)もう一方には(Vixen・Japan・etc・・)等々と打つと思います。年代と世界が違うと感覚も違うのでしょうか。
 金枠がシルバー色で決めてありますが、当時はアルミはありませんので洋銀とか鉛合金とか、わざわざ金ピカ色を避けて渋く上品にデザインされた気配を感じます。
 又、当時は旋盤加工も充分でなかったせいか、丸枠類はプレス(ヘラ絞り)で外観を決め、内部に辛うじてネジを切ってレンズ枠とし、レンズは懐かしい「かしめ」作業で締め付けてあります。
 なお、ボデー部には美しい貝が嵌め込んであり、紛れも無く「芸術品」の輝きを放っています。貝殻の多様は装飾性と芸術性をアピールする上で効果があったと思いますが、冷めた眼で見ると、当時はボデイの斜面を美的に切削する技術が無かったために、やむを得ず貝を使って荒れ肌を隠すほかなかった----そう見た方が確かなのかも知れません。
 なお、見口も貝で作られている点が驚きです。「そこまでやるか・・・」といった感じで最敬礼しシャッポを脱ぎました。

 中心軸についているピント合わせのためのリング(正式には転輪と呼びます)は中心軸の中程にありますが、これは通称「中テン」と呼んでいて、今でも組立てが結構むずかしく調整に苦心するところです。そのせいもあったのか、その中テンがこのオペラでは調整が不十分でガタガタになっていました。

 上の下も同じようなオペラグラスですが、この方は金物すべてが金色に輝く真鍮を使って出来上がっています。対物口径は上と同じ30ミリです。
このオペラグラスの特徴は、何と言っても手で持つハンドグリップが付いている事です。右手にグリップを持って、まるで手で翳す(かざす)ようにして舞台上の役者を見つめたありし佳き時代のご婦人方を想像して下さい。そんな時こそ、このオペラグラスが最高に映える時なのです。
 この真鍮製のオペラグラスはしっかりした作りになっています。然し、しっかりしている点とは別に、全体が野暮ったく金ピカ過ぎて、同じブダペストと読める刻印が打っていますが、評価としては上の上のシルバータイプよりは落ちます。豪華な作りですがちょっと安物のイメージがあります。

 

 ともあれ、両者とも典型的なオペラグラスで、これぞオペラグラス!!といった美しいフオルムです。2種とも復刻品として作られたものではなく当時作られた間違いのない本物です。
 因みに、映画などで、クラシックな場面で登場する貴婦人が持つこの種のオペラグラスは単なるダミーだと聞いたことがあります。
とにかく、多少の違いはあれ、両者とも立派なものです。こんな素晴らしいグラスを実際に手にした貴婦人はどんな美人だったのでしょうか。
 現在では、両者とも相当の値がついている筈です。ただ、残念なことに、この製品についての正確なメーカー名も歴史も、何も分っていません。
 然し、何も分らない事が逆に秘密めいた匂いを醸し出しているのも事実です。



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