旧ドイツ海軍の15x75 視界120°双眼鏡
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ジョドレルバンク観測所を訪ねて----

 イギリス・マンチェスター市郊外、ジョドレルバンク観測所には直径76メートルの世界第3位の巨大パラボナアンテナが聳えたっています(下 右図)。その建物内部の制御室に大きな双眼鏡が設置されているのですが、それが旧ドイツ海軍の120°15倍75ミリの双眼鏡です。120°の視界は物凄いというほかありません。
 超広視界のこの双眼鏡は広大な敷地の向こうに建つ電波望遠鏡の状況を監視するために使用されています。
 この双眼鏡が大戦中の製品である証拠には、プリズムボックスの側面に旧ナチスのシンボル、卍 に似たハーケンクロイツ(鍵十字)が今でもくっきりと刻まれている事で判ります。大戦末期、敗走するドイツ軍を追ったイギリス軍によって捕獲されたものが、巡り巡ってこの場所に落ち着いたのだと察しられます。

 120°光学系については、いろんな文献に書かれていますが、その中から「望遠鏡光学 吉田正太郎 誠文堂新光社 昭和53年版」の記事を例として紹介しておきます。

 

 『第二次世界大戦の末期の1945年に、ドイツのツアイス社が、潜水艦の潜望鏡に使うために、見かけ視界120°という驚くべき超広角の接眼鏡を設計しました。あとで判ったところによると、この接眼レンズは9枚の単レンズの組み合わせで出来ていて、貼り合わせて色消しになっている視野レンズの直径が180mmもあったのです。見かけ視界を広くするためには、視野レンズを大きくしなければならない事は図2.28(省略)で明らかですが、その極端な例です。

 ---その対物レンズ有効径は75mm、焦点距離1385mm、全体の倍率は15倍でした。作戦上の要求からこの潜望鏡は、8倍双眼鏡と同じ直径約8°の実視界とされ、接眼鏡は見かけ視界の直径が120°、焦点距離92.4mmでした。この接眼鏡は5群9枚構成14面、全長320mm、ヒトミ距離12mm、(約0.13f)です。視野レンズは2枚接着型で、直径180mmでした。・・・・』
 


旧ドイツ軍のUボートに装着された潜望鏡のレンズ配置図 視野レンズ径は180mmあります。

 ただ、この文献を読む限り、同じ120°といっても現物の双眼鏡から推測される大きさから判断して、データによるUボートに装着されていた潜望鏡とは違う事が分かります。これは双眼鏡用として独自に設計された120°なのかも知れませんが、そうなると、何故このような小型の双眼鏡にも拘わらず120°の視界が得られたのか、それ以上の理屈は分かりません。(現物は間違いなしに120°表示で、しかも覗いて見た限りでは確かに超広角でした。)どっか探せばこれについてのデータも出て来るのかも知れませんが・・・。

 上の写真は観測所の制御室。(但し、この写真は30年程昔の写真です。)オペレーターのやや右上に黒く丸いものが見えますが、それが120°双眼鏡です。現在もなおほぼその近くにセットされていますが、今回の訪問での写真では明瞭な形で写っていなかったので、参考までに昔の写真を引用させてもらいました。

                       
 左の写真はビクセンのスタッフと、案内をして頂いた Mr.I.Morison(Operations Engineer中央)。写真左上のパラボラはMr.Morisonの設計による傑作とのこと。右の世界地図は制御室内にあるもので、地図下には世界各地の電波望遠鏡の写真が貼ってあり、それらをクリックすることでオールタイム連絡が取れるシステムになっているとの事でした。(2000年3月訪問)


 ジョドレルバンク観測所について詳しく知りたい方は下記のリンクを御利用下さい。

Jodrell Bank Observatory
Macclesfield.Cheshire.SK11 9DL.UK

http://www.jb.man.ac.uk/


※なお120°の接眼鏡については、「コーヒータイム」の中の「脇本善司さん」の記事をご覧下さい。ビクセンにもこの120°接眼鏡の計画があります。参考までに、視野レンズの大きさは約120mm、焦点距離15mmです。



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