ビクセン・オペラグラス
3・5倍25ミリ---それはビクセンの「お宝」です。

 この型式のオペラグラス現在スポーツグラスと名称を変えて生産されています。但し、すべてOEM生産なので、詳しい経緯は自社製品とは云え不明の状態です。従って、今回のこの機種もはっきりした記録が残されていません。正確な論評は無理の状況にあります。然し、かなり古いことだけは確かです。製品に添付されているマークシールの検査員の名前から多分昭和60年頃だと判断しました。
 この種の製品は全国的に夥しい種類が出回った関係で、自社他社入り乱れて賑やかな販売合戦を呈していました。仕様も品質もすべて値段次第で、高ければ高いなりに、安ければ安いなりのデザイン・性能、でした。
 今回のこのスポーツグラスはその中でも中の上クラスです。デザインも立派だし、見え味もそれなりです。ただ、対物レンズ接眼レンズ共々アクロマートではなくシングルレンズを使っているので、厳しく見ると色消しが不十分です。
倍率は3・5 倍とありますが、この種の検査規格がゆるやかだったので限度一杯で作られている感じでした。従って正確には3倍弱の筈です。色消し効果はその分もある筈なので、まあ、OKと判断してよいかと思います。倍率が低い分に加えてガリレオ式の光学系では凸の対物レンズと凹の接眼レンズの収差が補完し合って多少キャンセルされるので、それによる効果もあります。従って、不充分とは云え通常の使用では気にならない範囲に収まっています。

 ビクセン光学「博物館」には主にヨーロッパの古い時代のオペラグラスを数多く載せてありますが、比較考察するにつけ、現代の日本のオペラグラスはかってのヨーロッパ製には遠く及びません。理由は簡単です。競争社会の中で常にコストが最優先課題とされてきたからです。プリズム式双眼鏡に比べて性能上いかんともしがたい限界があるという事に加えて、最近は中国製の主としてプラスチックの安価品が溢れるようになってきて日本の業界は瀕死の状況に落ち込んでしまいました。
 仕方がありませんね。因に、現在、ビクセンのカタログのうち日本製は高級2機種(いずれも双眼鏡なみの価格)、あとはいずれもプラスチックの安価な中国製で占められています。

 今回のこのスポーツグラスは、まだまだ元気だった頃の秀逸と呼べる日本製品でした。このあとしばらくして日本のオペラグラス業界は総崩れのサマを呈し、現在では中国製の草狩り場の状況にあります。
 この世界は「資本の論理」で動く世界ですから、嘆いてみたところでいかんともしがたいですね。
 そんな中で掉尾を飾った「ありし良き時代最後の製品」としてこのビクセン3.5倍25ミリのスポーツグラスは今に至るも燦然と輝いています。今のビクセンにとっては得難い資産として残る事になりました。文字通りの「お宝」です。



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