4倍40ミリの古いオペラグラス
この種のオペラグラスはこれまで何機種か取り上げたような気がしたのですが、調べてみても全く同じ機種はありませんでした。似たような機種は確かにありましたが、いずれも少しずつ違っています。つまり、この種の製品はかっては多数の機種が相当大量に生産され市場に出されたのだと思われます。
今回の機種は4倍40ミリ、このスペックはごく普通でとりたてて珍しい部類には入りません。全体の作りも特別に変わった箇所も見当たらず従来からのデザイン.スタイルを踏襲した普及品です。然し、その分、当たり外れもなく全体に問題になる箇所は見当たりませんでした。
製造の基本はプレスです。これまでも何度か書いたのですが、この時代のプレスの技術は大したものです。現在、これと全く同じように同じ製法で作れ、と云われても、どんなメーカーも尻込みするに違いありません。見た感じではお粗末な出来に見えますが、いざ、作るとなると大変な事になります。プレス工法ではなく旋盤作業でやれば簡単に出来るのに、プレスとなると一筋縄では出来ません。何故出来ないか詳しく説明するのは省略しますがとにかく無理と云うものです。それだけに往年の名人芸には脱帽するほかありませんね。
対物レンズは2枚合わせのアクロマート、接眼レンズも2枚組み合わせた上等品です。古い製品ですからコーテイングはありません。見え味は立派で文句のつけようがありません。写真は無限位置にピントが合った状態で長さは約130ミリ、持った感じにも無理がありません。ただプレス製品だけに接眼部の昇降にはかなりのガタが見られます。然し、操作や観望に支障を来す程のガタではありませんでした。
ボデイの皮張りはさすが年代を経ただけ捲れ上がっていました。但し、革そのものは勿論本革です。当然ながらビニールではありません。手触りはしっとりしていて抜群の感触です(但し、かなり硬化してはいましたが・・・)。
中心軸の尾部にはオマケかどうか小さなコンパスがついていました。実用上と云うよりはオマケでしょうから単なるアクセサリーと云う事でしょうね。中心軸には
VERRES (フランス語?)の刻印がありました。これは多分メーカー名だとは思うものの、曰く因縁は不明です。
オペラグラスは現在はプリズム双眼鏡の亜流に位置する低級品と見られていると思うのですが、そう決めつけるのは間違っています。この種の製品にはこれで立派に存在する意味と強みがあります。
最も大きい利点は、落としても、軽いのとシンプル構造によって壊れない事ですよ。因にプリズム双眼鏡の場合は落としたら一巻のオワリでしょうね。それと滅多な事では内部に曇りやカビが発生しません。使用しているガラス素材が単純なだけに曇りも出ずカビも生えにくいのです。勿論経年変化による劣化はあります。然し、現在のそれと比較してもそれは長期です。保存状態にもよりますが数年でダメになるようなシロモノではありません。今回の製品も汚れは目立ちましたが100年以上も経たレンズとはとても思えない程クリーンでした。見事なものです。その輝きにはため息が出た程でした。