薄型双眼鏡の傑作

MINAR 4X15

 この双眼鏡は、非常によく出来ている双眼鏡です。
 まず、コンパクトに纏められた薄型スタイルが気に入りました。これだけのデザインで完成させるとなると、そのために各所に構造上の無理が目立ってくる筈なのですが、多分、中を開いてみてもスマートに完全な形で組み立てられているに違いありません。

        

 薄型式の双眼鏡について
 この双眼鏡が平面的に薄く出来ているのは使用したプリズムに特徴があるからで、説明書からの推測では上図(左)のようなスプレンガータイプのプリズムを使用したため可能になったのだと思います。

 なお、最初に薄型の双眼鏡が世に出たのは1923年にドイツで発明されたメーラー社から発売された6X18CF(テリータ)のようです。
(詳しくは、月刊天文 2000年8・9月号を参照下さい。)
 メーラー社の発明によるメーラープリズムとは上図(右)にあるように6 回反射式で、なおかつ角度が45度90度等の研磨しやすい角度ではなく、中途半端な妙な角度で仕上がっています。形としては、一眼レフカメラに使われる[ペンタプリズム]と[ミラー(直角プリズムに変えて)]を一緒に接着した形状と同じです。そんな形のプリズムを変則角度で研磨して、更に接着するとなったら大変な事で、名人芸と極端に高いコストがかかります。又、歩留まりもバカにならない数量になる筈です。   
 一方、スプレンガープリズムは普通の4 回反射式、研磨もメーラー式と違って比較的楽な形です。

 MINAR4X15はそんな基本設計をもとに生産されました。
 実物を実際に持った感覚では、しっとりした手ざわりで、みるからに高級感が伝わってきて、思わずウームと唸ってしまう程です。

 然し、スプレンガープリズムがメーラー式プリズムより簡単で安く済む、と云っても高価である事には変わりありません。従って、現在でもその式のプリズムを使って組み立てられた製品にはお目にかかった事はありません。
 現在使われている小型双眼鏡のプリズムの多くははペチャン・ダハ式と云う形式で、ダハプリズムともう一個の補助プリズムを使う方式が取られています。(下図 右 参照)そして、この方式での大量生産(スケールメリット)による大幅なコストダウンが為され、ほぼ99パーセントがこの方式のプリズム使用で占められる状況が続いています。


(左 ポロ式)  (右 ペチャン・ダハ式)

 然し、ペチャン・ダハ式が安くて済む-----と云ってもその他に問題はないのか?----となると、問題はあります。ダハ(別名ルーフとも云いますが)プリズムの最大の欠点はプリズムの平面が交わる線(稜線)での研磨エラーがゼロには出来ない点です。そしてその研磨エラーは常に視界のセンターをよぎる形で目に入って来るので、そのエラーが目に見えてくる程の高倍率は出せません。低倍率ではコストに見合った精度で充分ですが、高倍率かつ大口径用の双眼鏡となるとペチャン・ダハ 式プリズムの精度アップによるコスト負担が大きすぎて価格の点で他のポロプリズム式双眼鏡に完全に劣ります。

 然し、中低倍率の薄型タイプでは充分です。ペチャン・ダハ 式に勝る方式の双眼鏡はありません。---その先鞭をつけ可能性を確かにしたのがMINAR 4X15 だったと思います。
 但し、現在、薄型の双眼鏡は必ずしもデザインの主流を占めてはいないようです。ペチャン・ダハ式の双眼鏡は薄型よりもH型と呼ばれる小型双眼鏡として広く生産されています。薄型向きのプリズムと分っていてもH 型の方がよりコンパクトになるせいかも知れません。


 MINAR 4X15 はスペイン製であることは分っていますが、はっきりした製作年代や製作会社の詳しい内容は不明なので、目下スペインに問い合わせ中です。然し、返事が来るかどうかは分りません。もし、詳細が分った場合は勿論このサイトに追加して発表することにします。

 上文で「ポロプリズム」と書いた箇所がありますが、ポロプリズム方式とは、直角プリズムを二個使用して像の反転を行う方式を指します。(上の左の図)ポロ式の場合は最もシンプルな形の直角プリズムを使うので、これ以上簡単かつ安価なプリズムはありません。ペチャン・ダハプリズムが量産効果で安くなったといってもポロプリズム式には叶いません。従って、小型は勿論、中型や大型の双眼鏡のほぼ全部がこの方式のプリズムを使用しています。大型でペチャン・ダハ式プリズムを使っている双眼鏡は滅多にないのです。(ポロプリズムには一種二種の二つのタイプがありますが、ここでは詳しい説明は省略。)

---それでは、ペチャン・ダハ式プリズムを使わずに、ポロプリズムを使用して精度の良い小型でそして安価な「薄型双眼鏡」は出来ないのか。-----今更そんな事を考えた人は多分皆無な筈です。
 然し不可能ではありません。


ビクセン光学が考えた薄型双眼鏡の光路図

 使用するプリズムは直角プリズム2個とミラー2枚です。ミラーは左右の光軸を共有するミラーとなります。上部のミラーは、使用時にパッチン式?でハネ上げ、使用が終わったら閉めることになります。
これに似た方式としては折り畳み式のオペラグラスがそうです。
 原理はこれで終わり。構造としては、対物レンズの位置はパッチンの下、ボデイの天井に上向きに、そのあたりが賢明でしょうか。この外 眼幅調整装置、合焦装置、その他いろいろありますが、副次的な問題なのでここでは省略です。
 勿論 腹案があるとしても、実際に製作を実行するかどうかは全く別問題になります。
 いずれにしても、薄型双眼鏡についての一つのアイデアです。薄型双眼鏡の製作では複雑なダハプリズム使用に限らない事だけはお分かりでしょう。(PATENT PEND)
 

 ※ 博物館の記事としては今回は多少外れた内容になってしまいました。



|続く|                          |戻る|